おくすりぽりぽり

国試や受験、薬や病気etc...一方的に発信するブログ。

Aさんの昔話~人生切り開いたおじいちゃん~

こんにちは、ねず実です。

卒業後、故郷から遠く離れたど田舎でしばらく働いていました。(引っ越し済み)

そこで出会ったどうしても忘れられない人がいるので、忘れないためにここに書きたいと思います。

出会い

 その人との出会いはタクシーでした。

あの頃、ど田舎で働いておきながら通勤は公共交通機関を使っていました。

田舎の電車は1本逃すと次が来るまでかなりの時間がかかります。

 

目当ての電車を逃したある日、運が悪いことにひどい雨でした。

夏の終わりとはいえ、故郷よりも寒い地域なので寒がりのねず実にとって夜の雨は辛い。

駅と言っても雨風凌げるほどの設備が無く、付近には喫茶店もないですから駅で次を待つのは大変。

(当時新型コロナウイルスの影響で県外出身者への風当たりが強く、職場の休憩室でも待てず)

 

いつもなら駅で濡れながらおとなしく次を待つのですが、その日は何となくタクシーを選択。

 

やってきたタクシーの運ちゃんはぽちゃっとしてにこにこしたおじいちゃん。

この地域で他人に笑顔を向ける人は珍しいのでおやっと思いました。(悪口ではない、事実)

忘れられない人というのはこのおじいちゃんです。

思わぬ共通点

タクシーに乗り込み少し会話をすると、聴き馴染みのある言葉遣い。

この地域はねず実の実家から遠く離れていて方言も全く異なります。

それなのにこのおじいちゃん所々懐かしい話し方が混ざっています。

 

もしや!と思い「もしかして○県(ねず実の地元)にいたことがありますか?」

と聞いてみると、「俺の地元はここだが、若いころ○県で働いていた。」とのこと。

 

故郷に飢えていたねず実は大喜び!

自分が○県出身で少し前に引っ越してきたことを告げるとおじいちゃんも大喜び。

 

「俺は○県の言葉が好きだ。周りに何と言われようと今でもあそこの言葉を使っている

。」

それを聞いて自分はぽろぽろと泣いてしまいました。

だってここに引っ越してきてから地元の方言が話せないことで、「○県の人間は頭が悪い」、「皆と同じ話し方ができないのはおかしい」とまで言われてましたから。

なんとか地域に馴染もうと方言をまねても却って嘲笑を招くだけ。

 

おじいちゃんに実は故郷の方言を使わないように気を付けていると伝えたら、そのおじいちゃんは「故郷が好きなら胸を張って使いな」と言ってくれました。

 

温かい・・・

 

おしゃべりに花を咲かせているうちに、ねず実はなんでおじいちゃんが○県にいたのか、なんで戻ってきたのかすごく気になりました。

聞いてみるとおじいちゃんは「ぜひ聞いてほしい」と快く教えてくれました。

前提として地域データ(当時)

このタクシーのおじいちゃんと、別件で同じくらいの年代の地元の方から子供の頃について聴取した情報をまとめました。

・電気が通っていない家がいくつもある

・テレビない

・近くに医者がいない

・車を持っている人が周りにいないので、病院行くときはめちゃくちゃ歩く

 (症状重い人は台車に乗せられて近所の人達で力を合わせて一緒に運ぶ)

・大学?なにそれ美味しいの?

田舎の選択肢は少ない

おじいちゃんのことは以下Aさんと表記します。

 

現在でも結構な田舎のこの地域。

Aさんの子供の頃は言わずもがな。

 

県外どころか町の外にすら一度も出ずに大人になる人も珍しくない。

地元の中学校を出たら家の農業をやるか、地元の会社関連の学校に入り、地元の会社に定年まで勤めることが絶対的な幸せへの道筋。

女なら早く結婚して男の子を産み、子育てと義両親、義祖父母の介護をきっちりやり遂げることが義務であり喜び。

そんな地域で育ったAさん、中学生の時にこのままずっと地元にいて良いのか疑問に思ったそうです。

 

親も友人も先生も皆で呪いのように「△△(地元の会社)に入れば一生困らない。」と言ってくることが、「良く分からないがとても不気味だった。」そうです。

周りと違ったAさん

なぜ周りがそんな考えに染まっているのにAさんは違った考えを持てたのでしょうか。

Aさん曰く「俺はラジオが好きでずっと聞いていた。ラジオで日本が広いことは知っていた。」

当時テレビは存在していましたがまだまだ贅沢品。

また、文字も読まない人が多く(読めないわけではないと思う)、専ら情報源はラジオと近所の噂。

これはねず実の推測ですが、皆がラジオをBGMとしてぼーっと聞き流す中、Aさんはラジオで流れているニュースやラジオドラマの中身を意識して聴いていたのでしょう。

 

地元で繰り返される同じ毎日、他の地域では全く違う出来事が起こっています。

ラジオで世界はこの町だけではないことを知ったAさんは、「外」への憧れをどんどん膨らませていきました。

家出を決意

中学卒業後の進路をもう決めなくてはいけない、そんな時期にAさんはあることを思いました。

「皆と違う学校に行って、他の地域で働きたい!」

もちろん却下ですね、はい。

 

親も友人も先生も、誰もが「おかしくなったのか、やめとけ。」と止めてきたそうです。

親と先生はもはや怒っていたと言っていました。

言うことはいつも同じ、「ここから出ても幸せにはなれない。皆の言う通りにしていれば絶対間違いない。」。

 

皆の言う通りの進路を歩めば幸せになれるという価値観の町で、「それは幸せじゃない」とはっきり自覚したAさん。

地元を出て進学または就職することを心に決めました。

 

しかしまだ中学生、自力で何とかするのは難しい。

地元で農業をやるか高校へ進学するか、進路を決めるタイムリミットが迫ります。

そんな日々の中で偶然聞いたラジオのある特集がAさんの人生を変えたのです。

 

Aさんがラジオ番組の中で特に楽しみにしていたのは各都道府県を特集するシリーズもの。

その日Aさんが聞いた番組でねず実の故郷の○県が特集されたのです。

ラジオなのでもちろん映像はありません。

その番組でAさんは遠く離れた○県を想像してとてもわくわくしました。

Aさんはその時の気持ちを振り返って、「特に方言が凄く格好良くて痺れたね。」と言ってくださりました。ねず実誇らしいです。

 

「本当にこんな場所があるのだろうか。この目で見てみたい…」

Aさんは居ても立っても居られず家出を決意。

でもツテは無く、行ったところで頼れる人もいません。

悩むAさんにラジオが凄い情報を与えてくれました。

”○県には凄い会社があります。日本が世界に誇れる会社です。”

 

これを聞いたAさん、そんな凄い会社があるんだから、とにかく○県に行ってその会社に入れば何とかなるだろうという結論に至りました。

 

驚きですよね。

中学生ですよ、ねず実は思わず「無謀にも程があります。」と言ってしまいました。

Aさんも「俺も無謀だっと思う。」と笑ってました。

脱出決行

家出を決意したAさん。

家出なので当たり前ですが、誰にも行き先を告げずに飛び出したそうです。

決行は夜。

田舎の人は寝るのが早い、なのでAさんのご家族が寝静まるのも早い。

真っ暗闇の中、親のお金を少々拝借しついに家を飛び出したAさん。

田舎は監視社会なので、誰か一人に出も見つかったら終わりだと心臓はバクバクだったそうです。

 

街灯なんてない真っ暗闇。(今でも街灯はほぼ無い)

人目につかぬようそんな闇の中を進むAさん。

そんなAさんに困ったことが起こりました。

 

実はAさん列車に乗ったことがないのですが、それだけでなく列車をろくに見たこともない。

そして駅が分からない。

今ならグーグルマップで場所を調べたり、乗り換え検索ができますが、当時はまだインターネットはありません。

 

大人たちの会話から手に入れた「あっちの方に都会方向に行く駅がある」という雑にもほどがある情報を元に正しいかも分からない方向へ無我夢中で走り続けました。

 

そしてひたすら走り続けたAさんはついに線路を発見しました。

線路を辿っておそらく噂の駅であろう場所に辿り着いたAさん。

闇の中走ったからか、今思えば薄暗い駅がその時は眩しく見えたとのこと。

旅が始まる

駅というものに辿り着いたAさん。

いつ来るかもわからない列車をしばらく待っていると、ついに待ちに待った列車が到着。

闇の中やってきた、何か光っていてにょろにょろと長い乗り物。

初めて間近で列車を見たAさんの感想は「びっくりした。」でした。

確かにバスみたいなのを想像して列車来たらビビりますよね。

 

緊張が解けてる彼が押し寄せて来たのか、列車に乗ってからはほとんど記憶がないそうです。

乗り換えの記憶もないらしいです。

よほど疲れていたんでしょうね。

 

場所を考えると合計12時間くらい、もしかしたらそれ以上の時間列車に乗っていたのではないでしょうか。

(それにしても、夜に子供一人で乗り込んできて誰も止めなかったんですかね。時代かな。)

ついに目的地へ

Aさんの最終目的地はラジオで聞いた凄い会社がある場所ですが、その前に都市部ど真ん中を通ります。

ラジオで言っていた通り凄くキラキラしていて、歩いている人もキラキラしていて驚いたとAさん。

都市部のキラキラに驚きつつ遂に目的地に到着。

ずっと緑に囲まれて育ってきたAさん。

初めてみる工業地帯に大興奮だったそうです。

後日見に行ったコンビナートは特に衝撃だったと語っています。(コンビナート良いよね、特に四日市がおすすめ。)

 

初めて見るものばかりで感動しているAさん、いつまでも感動に浸ってはいられません。

Aさんは家出少年。このままではホームレスまっしぐら。

えいままよと目についた例の会社名が書かれたその辺の建物に飛び込みました。

 

色んな人に支えられ

いざ目的地に着いたものの、この後どうして良いかわからないAさん。(まだ中学生ですからね。)

取り敢えず例の会社の名前が書いてあるそのへんの事業所にカチコミ。

いきなり飛び込んできて「働かせて下さい」と言う中学生、普通は追い返すと思います。

でも追い返すことなくとても親切に話を聞いてくださったそうです。

まだ卒業前の中学生。

通常であれば実家に送り返すべきだと思いますが、Aさんの必死さに何か感じたのか受け入れてくれました。(懐がでかすぎる)

ただしいきなり働かせてはもらえません。

 

そこの会社の人に何度も強調して言われたことが「学校にいって勉強はしっかりしなさい」。

Aさんまだ中学生ですからね。

 

そこからはAさんも子供だったのでよく分からないらしいですが、身元保証人をつけてくれた上に、中学卒業を迎えたら指定の学校に通えということで進学先も用意してくれたとのこと。

恩返しの気持ちもあり、頑張って勉強し、目的の会社へ無事就職。

「毎日が楽しかった。あのまま地元にいたら手に入らない生活だった」とAさん。

何が楽しかったか聞いてみると、「その辺を色んな車が走っていて、見てるだけで楽しかった。食べ物もいろんなお店があって幸せだった。」とAさん。

地域が違えば当たり前が当たり前でなくなる、ねず実も故郷を離れて実感しております。

 

Aさんの使命

憧れの土地で憧れの会社に入り、充実した毎日を過ごしていたAさん。

故郷を飛び出し気づけば長い年月が経っていました。

時が経つと段々故郷が恋しくなり、ついに帰省をします。

でも久々に帰省したAさんは悲しくなったそうです。

なぜなら皆が全然変わっていなかったから。

ねず実も田舎と都会、両方見て思いましたが、田舎って時の流れが全く違う。

それこそ50、60代になっても中学の頃の話を最近のことのように話す人が多い。

それは悪いことではありません。

人間関係や価値観をいつまでも変える必要がないのはある意味幸せだと思います。

 

ただ、子供の頃から変化を望み、行動してきたAさんからすると、自分が出ていった頃と比べて、歳をとった以外に変わらない皆の姿に懐かしさよりも悲しさがわき起こったのでしょうね。

 

まあ、余計なお世話ですが、ねず実もあの地域はもう少し変わったほうが良いと思うのでAさんに賛成。

 

相変わらず排他的で、価値観も昔のままの故郷の姿を見て、Aさんは「この地元を変えることが俺の使命」だと使命感が湧いてきたそうです。。

俺が変える

仕事を辞め、あんなに逃げたかった地元に帰ったAさん。

選んだ仕事はタクシー運転手。

 

何故タクシー運転手が地元を変えることに繋がると考えたのでしょうか。

Aさんに聞いてみると、「一番効率的に色んな人と話せそうだったから。」

 

たくさんの人と話して、自分の考えを伝えたり、外を知って貰うことで人々の意識を変えていこうと思ったのだそうです。

 

「今でも○県に戻りたい。けど自分の役目はここにあるから。」とAさん。

もうAさんがおじいちゃんには見えなくなりました。

 

ねず実の目的地について精算をした後、話を聴いてくれてありがとうとAさんお菓子をくれました。

こうして楽しい帰り道となったのでした。

 

後日談

人生は一期一会、Aさんと会うことももう無いだろうと思っていました。

でも田舎で職員が少ないせいか、その後もタクシーを呼ぶとAさん率が高かったです。

なので引っ越してその土地を離れるまでの間、Aさんとお話したいときはタクシー帰りにしてました。

 

 

終わりに

昔の話なので多少盛っていかもしれませんが、それでも凄い話ですよね。

自分が中学生のころなんて、旅には憧れたけれど自立とか地元を離れるとか真剣に考えたことは無かったと思います。

多くの子供にとって地元が世界ですから。

 

当たり前ですが、幸せの定義は人それぞれです。

知っている人だけに囲まれてトラブルなく何事もなく生涯を終えることが幸せである人がいます。

挑戦して失敗して、それでも挑戦できたから幸せだと言う人もいます。

ただ、「自分にとっての幸せとは何か」を考えずに、周りが提示する幸せを脳死で必死に手繰るのは違うのではないでしょうか。

せっかく人間に生まれたのですから。

皆様が何かしら納得のいくものを手に入れられることを願っております。